労働安全衛生総合研究所

「もしドラ」に学ぶ職場のメンタルヘルス対策

 皆さん,「もしドラ」という言葉を耳にしたことはありますか?

 「もしドラ」とは,「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という本(岩崎夏海著・ダイヤモンド社)の略称です。2009年12月に発行されてから徐々に人気を伸ばしていき,現在までの発行部数は,231万部にのぼっています(2011年2月23日現在)。

 本屋に行くと,固い題名の本が並ぶビジネス書のコーナーにて,場違いに可愛い女の子が表紙になっている本が平積みにされているのを目にすることができると思います。

 高校の野球部が舞台のお話ですが,青春小説のストーリーの中に,一見難解な印象を受けるドラッカー*1のマネジメント思想のエッセンスが分かりやすくちりばめられ,具体性をもって紹介されています。ドラッカーはビジネスの世界ではずっと知られていましたが,一般の多くの人々にもその思想を知らしめたという点で,類まれなる名著です。そんなもしドラが,この3月に,NHKでアニメ番組として放映される予定です*2。本で読むのとはまた違った楽しみ方で,ドラッカーの思想に触れられるよい機会です。

 この記事の題名を見て,なぜ,職場のメンタルヘルス対策と「もしドラ」が関係あるの?と思われた方がいることでしょう。その理由は,ドラッカーのマネジメントの考え方は,職場のメンタルヘルス対策を進める上で,わたしたちに多くのヒントを与えてくれるからに他なりません。

 一例として,「もしドラ」の中で出てくるドラッカーの言葉を紹介します。

 「人こそ最大の資産である」(ドラッカーの『マネジメント』ではp81)

 リストラや非正規雇用,派遣切りなどの言葉があふれている現状では,こうした考え方は,ともすれば忘れられがちになってしまうものです。ドラッカーは,こうした人間主義の思想を根底においた上で,組織の変革を導き,成果を上げていくプロセスを紹介してくれています。「マーケティング」,「イノベーション」,「人の強みを生かす」などのキーワードは,すべて職場のメンタルヘルス対策にも通ずるものがあります。

 メンタルヘルス対策とは,職場で働いている方たちにとって,なにも特別なものではなく,日常の活動の延長線上にあるものです。労働者のメンタルヘルスを良好に保つには,悪いストレスのない,働きやすい職場環境づくりが何よりも大切です。

 経済不況の中で,ともすれば後手に回されがちである労働者の健康対策も,人材への投資といった観点からとらえれば,その意義の深さが見えてくるのではないでしょうか。それは,成果をあげることと背反するものではないのです。

 職場のメンタルヘルス対策が組織的に行われるためには,企業経営陣の理解がまず必要になります。もしドラをきっかけに,多くの企業でドラッカーの理念にならい,職場のメンタルヘルス対策が浸透することを願ってやみません。


*1 P.F. ドラッカー(1909-2005):生前は米国クレアモント大学院大学教授として教鞭をとっていた。多くの著作があり,マネジメントを初めて体系化したといわれ,ビジネス界に大きな影響を持つ思想家として知られる。
*2 テレビ放送は,NHK総合にて,3月14日午後10時55分から放送予定(全10話)


作業条件適応研究グループ 任期付研究員 土屋政雄)

土屋のWeb上情報: http://researchmap.jp/mtsuchi/
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