労働安全衛生総合研究所

爆発や火災の原因となる静電気の発生メカニズムに迫る
-電荷の発生とマイクロギャップ放電による緩和現象-

1.はじめに


 冬になると気になるのが静電気です.摩擦で発生した静電気が爆発や火災といった災害に至るまでにはいくつかの段階を経るという話を前回のコラム1)(No.52「静電気研究への新たなアプローチ」)で紹介しました.具体的には、接触・摩擦によって発生した電荷(電気の量)は、電荷が発生した直後に微小な隙間に起こる放電(マイクロギャップ放電)によっていくぶんかは減少しますが、摩擦が続く限り電荷は少しずつ増加していき、ついには静電気放電を引き起こして爆発・火災の引き金となる、という解説をしました。このコラムでは、このプロセスの初期の段階に相当する、接触で最初に発生する電荷の測定とマイクロギャップ放電について、最近の研究結果も含めて引き続き解説したいと思います。


2.マイクロギャップ放電とは


 マイクロギャップ放電とは特別な現象を指す言葉ではなく、電極間の距離を1から100マイクロメートル(μm)ぐらいにしたときに、気体が絶縁破壊して起こる放電のことです。帯電電位は低くても距離が極端に短いので、電極間の電界が非常に強くなって放電になるという特徴があります。大気中で固体どうしを摩擦すると、接触している付近に必ずできる10 μm前後の隙間で放電が発生します。これもマイクロギャップ放電の一種です。マイクロギャップ放電が摩擦の直後で起こるのは、摩擦で発生する最初の電荷が比較的大きく、微小な隙間のところで数百から数千ボルトの電圧が発生し、空気の絶縁破壊現象が起こるからです。見えないぐらいに小さな隙間でピカッと光る雷のような放電現象が生じるとはにわかには信じられないかもしれませんが、放電が起きないように真空中で摩擦帯電量を測定することで、放電が十分に起こり得る電界強度になることを確かめることができますし、マイクロギャップ放電からの光は高感度なセンサで検出できる場合もあります2)(文末粘着テープの剥離帯電の放電発光 参照)。

3.摩擦帯電量の測定


 接触面積を正確に観測しながら、真空中で金属とプラスチックの摩擦電荷を測定する実験装置を作製し、ステンレスとPET(ポリエチレンテレフタレート)の摩擦電荷を測定しました。PETは負に帯電し、真空中では1平方メートル当たり約500マイクロクーロン(μC)の電荷が発生しました2,3)。これを電荷密度(面積当たりの帯電量)と言いますが、500 μC/m2は、10 μmの距離にあるステンレス表面との間に600ボルトの電圧を発生させることができるぐらいの大きさです。通常、空気が絶縁破壊するためには3メガボルト/メートル(MV/m)以上の電界強度を必要としますが、このときの電界強度は60 MV/mにも達するので、空気は絶縁破壊を起こして電流が流れます。これが、摩擦の接点付近でマイクロギャップ放電が起こる理由です。
 真空中で測定した摩擦電荷の電荷密度の大きさとその極性(帯電特性)は、材料の組成だけに依存すると考えられますので、材料が持つ物性値との関連性が注目されますし、接触・摩擦帯電の原因を究明することにも一歩近づくかもしれません。また、物質Aと物質Bの接触帯電特性と物質Bと物質Cの接触帯電特性から、AとCの接触帯電特性は説明できるか、と言ったような単純かつ基本的な問題へのアプローチも興味深いところです。
 マイクロギャップ放電によって、空気中での摩擦帯電量は、最初に発生した量のおよそ10分の1程度に減少することが分かりました3)。この研究から、摩擦を取り囲む空気や気体はマイクロギャップ放電による接触帯電の緩和に大きな影響を与えることが予想できます。気体の性質を利用すれば、さらに帯電量を減少させることができるかもしれませんし、湿度の違いが帯電量を減らす割合にどのように影響しているかが分かれば、夏と冬の静電気の違いが湿度などによる空気の性質からきちんと説明できるかもしれません。


4. おわりに


 このような真空中での本来の摩擦帯電量の測定と空気中でのマイクロギャップ放電による帯電緩和についての研究は近年始まったばかりで、まだまだ測定できた試料の数は少ないのですが、様々な試料でこの実験を繰り返し、データを蓄積して、複雑な摩擦電気現象を解明していく予定です。そして、静電気による災害を減らすために、蓄積した静電気を取り除く従来からの方法(事後対策)に加え、発生源に対しても静電気対策(根本対策)ができないかを探究していきたいと思っています。
 さらに詳しく知りたい方は、労働安全衛生研究に掲載されている原著論文3)を是非読んでいただければ幸いです。


(参考資料)
  1. 三浦崇.静電気研究への新たなアプローチ, 安衛研ニュースNo. 52 (2012) https://www.jniosh.johas.go.jp/mail-mag/2012/52-column.html
  2. 三浦崇. 金属と絶縁体の摩擦による電荷分離とマイクロギャップ放電による帯電緩和効果の測定, J. Vac. Soc. Jpn. to be published.
  3. 三浦崇,山隈瑞樹.静電気による労働災害防止のための金属と樹脂固体の摩擦帯電量測定,労働安全衛生研究, Vol. 6, No. 2, pp. 59-66, (2013) https://www.jstage.jst.go.jp/article/josh/6/2/6_59/_article/-char/ja/[J-Stage]


参考(粘着テープの剥離帯電の放電発光)
 マイクロギャップ放電の発光は一般には肉眼では見ることができません。その理由は、光が極めて弱いこと、そして、光のほとんど不可視光線である紫外線であるためです。しかし、互いに貼り合わせた荷造り用の粘着テープを引き剥がすと、暗いところで発光を見ることができる場合があります。これも接触帯電によるマイクロギャップ放電現象です。光が見える理由は、全体として帯電量が大きいことと、粘着剤に含まれる蛍光物質が放電で生じた電子の衝突によって光るためです。したがって、どのように発光するかはテープに依存します。




写真:撮影方法と放電写真


(a)テープの粘着面どうしを貼り合わせて剥離するときの光を撮影する方法。
(b)市販のデジタルカメラで撮影した写真。紫色の光が出て、肉眼でも観測できる。

(電気安全研究グループ 任期付研究員 三浦 崇)

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