労働安全衛生総合研究所

海外からの研究所訪問とナノ粒子やナノ材料に関する講演会

 平成26年4月9日(水)、Gunter Oberdoester教授(ロチェスター大学)と市原学教授(東京理科大学)が、日本のナノ材料関係の労働現場やナノ粒子に関する研究の現状を把握することを目的として、当研究所登戸地区を訪問されました。

 小川康恭理事長、福澤義行理事による研究所紹介ののち、当研究所の小野真理子環境計測管理研究グループ部長、王瑞生健康障害予防研究グループ部長、Gunter Oberdoester教授の順で、講演を行いました。この講演会には、ナノマテリアル研究に携わっている役職員を中心に約20名が集い、予定時間を超えて活発な意見交換が行われました。講演の概略は以下のとおりです。

  1. 小野部長は「ナノ材料関係の現場調査について」と題して、カーボンナノチューブ(CNT)のばく露評価法と日本におけるばく露の現状について報告しました。当研究所が提案しているCNTのばく露評価法は、繊維径に対応する炭素の酸化温度と浮遊粒子のサイズを元に環境中の粒子とCNTとを分けて定量するというものです。詳細なばく露評価をする際に考慮すべき、100 nm程度の微小粒子の取り扱い方、妨害となるディーゼル排出粒子等の分離についての議論がありました。また、工業的に使用される頻度の高い種類のCNTについて、測定法を随時開発する必要があることが確認されました。
  2. 王部長は「ナノ粒子に関する動物実験について」と題して、実験動物を用いての金属酸化物ナノ粒子の生体影響に関する研究を紹介しました。マウスに二酸化チタンナノ粒子を投与した後、肝組織などにおける遺伝毒性、炎症反応、酸化ストレスの変化を解析した結果、粒子状物質は肝組織に存在したにもかかわらず、遺伝子突然変異や染色体異常が誘発されておらず、炎症反応なども顕著ではなかったことが判明しています。投与量、他の組織における粒子の有無、データの解析法などについて、参加者との間で意見交換がなされました。
  3. Gunter Oberdoester教授は、「From Exposure-Dose-Response Data to Hazard and Risk Characterization of Inhaled Nanomaterials」と題して、CNTの吸入毒性試験を中心に、ナノ材料のばく露濃度と生体反応との関係を豊富なデータを用いて紹介し、ナノ材料の有害性評価とリスク評価の方法や特徴を説明されました。参加者からは吸入ばく露試験の代替法としての気管内投与法の有効性、ナノ材料ばく露の腎臓障害及びそれによる体内動態への影響、ナノ材料の有害性分類に使用するエンドポイントなどについて質問があり、Oberdoester教授との間で活発な議論がありました。

 講演会ののち、ナノマテリアル研究を行っている粉じん実験室、電子顕微鏡室、動物実験棟を見学され、そこでも活発な質疑がありました。

 当研究所では、ナノマテリアル研究を重点的に取り組むべき分野の一つと位置づけ、その計測法の評価・開発から生体影響研究まで、多くの研究者が取り組んでいるところであり、今回の訪問は両者にとって非常に有意義なものとなりました。今後も継続して情報交換を行っていきたいと考えています。

(国際情報・研究振興センター長代理 外山みどり)

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