労働安全衛生総合研究所

平成26年度 安全衛生技術講演会実施報告

 今年度も安全衛生技術講演会を大阪会場(9月19日)および東京会場(10月9日)の2か所で開催しました。参加者は大阪会場で171名、東京会場で182名の計353名でした。この講演会は当研究所の労働安全衛生分野における研究成果を企業の安全衛生担当者や安全衛生業務に従事している方々などにお伝えし、安全衛生水準の向上に役立てていただくことを目的とし、毎年、2-3会場で開催しています。今年度は「これからの労働安全衛生管理」をテーマとして、特別講演1件、一般講演5件の発表が行われました。特別講演および一般講演の概要は下記をご覧下さい。

 次回は来年、平成27年の秋頃に東京、大阪などで開催する予定で、テーマや講演内容を検討中です。今後も、企業で実際に活用できる形での、研究成果の公表を目指してまいります。開催概要が決まりましたら、このメルマガでご紹介する予定ですので、是非ご参加くださいますようお願い申し上げます。

特別講演および一般講演の概要
特別講演「今後、企業に期待される安全衛生管理」
  中央労働災害防止協会 近畿安全衛生サービスセンター 安全管理士 平田八郎
概要  1.歴史に学ぶ安全衛生管理
 2.今後、企業に期待される安全衛生管理
  2-1 安全衛生管理の仕組み作り
  2-2 技術で創る安全衛生
  2-3 職場のコミュニケーション
  2-4 職場自主活動の推進
 3.私の安全衛生8カ条
講演1「職業電磁界ばく露と国内外の電磁界ばく露規制に関する現状」
  健康障害予防研究グループ 主任研究員 山口さち子
概要  職業電磁界ばく露は国内では労働安全衛生法の対象ではないものの、近年の欧州職業電磁界ばく露に関する指令(Directive2013/35/EU)を発端として国際的には規制の潮流である。本講演では下記の内容を紹介した。
1) 電磁界ばく露の生体応答の概要
 ・短期的影響は科学的に確立された現象
 ・低周波電磁界では神経刺激作用が、高周波電磁界では熱作用が生体への作用
2) 産業用機械より発生する磁界のばく露評価法
 ・ガイドライン適合性の確認のためには磁界の周波数及び強度に関して情報が必要
 ・産業機械の種類と作業場所によっては作業者に強い磁界にばく露の可能性
3) 規制・ガイドラインおよび国際動向
 ・代表的な電磁界ばく露ガイドライン(国際非電離放射線防護委員会:ICNIRP)の概要及び適合性評価方法の紹介
 ・Directive2013/35/EUの概略及び評価方法の紹介

 電磁界ばく露による生体応答を正しく理解し、また、作業環境の電磁界ばく露調査を行うことは、職業電磁界ばく露に起因する作業者の潜在的な健康に対する不安感に対するリスクコミニュケーションとして重要である。より詳細な内容についてはガイドラインや関連文献(WHO EHC232/238)を必要に応じて参照されたい。
講演2「東日本大震災におけるアスベスト飛散状況と今後のアスベスト対策の課題」
  環境計測管理研究グループ 研究員 中村憲司
概要  東日本大震災被災地におけるがれき処理等の労働環境中のアスベスト飛散状況について、(独)労働安全衛生総合研究所や厚生労働省の実施した現地調査を基に報告した。平成23-25年度の調査結果では飛散事例は全て建築物解体作業であり、その原因は不適切な隔離や負圧の不足、集じん排気装置の不具合等と推定された。最近の石綿に関する法令改正や技術上の指針、マニュアル等にはこれらの知見も反映されており、解体作業時の留意事項について具体的な対策が盛り込まれている。講演では、それらを基に今後の作業において留意すべき点として適切な隔離、前室からの漏えい防止及び集じん排気装置排気口からの漏えい防止についての考え方や具体的な方法を紹介した。
講演3「ロールボックスパレット使用時の災害を防止するためには」
  人間工学・リスク管理研究グループ 主任研究員 大西明宏
概要  ロールボックスパレット(以下、RBP)とは、カゴ車などと呼ばれている荷役機器である。RBPの被災状況は、(1)上肢(指、手、腕)の激突・はさまれ、(2)下肢(足指、足、脚)の激突・はさまれ、(3)キャスターによる足部負傷、(4)頭部・顔面・歯の負傷、(5)RBPの下敷き、転倒・転落によるものの5パタンに集約される。この典型的な被災パタンを踏まえたRBP取り扱いの作業手順・マニュアル化を進めるだけでも十分な災害防止効果があると期待される。本報告では上記内容を詳しく解説すると共に、実際の現場での取り組み例などを挙げながらRBP起因災害防止を効果的に実施するためのポイントについて述べた。
講演4「化学プラントのリスクアセスメント-爆発・火災のリスクを減らすために-」
  化学安全研究グループ 上席研究員 島田行恭
概要  ここ数年の大手化学工場における爆発・火災事故の背景要因として、非定常作業や緊急時対応作業に対するリスクアセスメント等が不十分であったことが指摘されている。本講演では、化学プラントの安全設計の基本的な考えについて説明するとともに、リスクアセスメント等実施に関する課題をまとめた。さらに、化学プラントの特性を考慮したリスクアセスメント等の進め方について、以下の2点に分けて説明した。
 1) 危険源抽出に際して、化学反応プロセスの不調、プラント・設備の不具合、プラントの運転操作や保守作業のミス、地震や停電などの外部要因などを考慮する必要があること。
 2) 労働災害防止だけでなく、爆発・火災などのプロセス災害防止のためのリスク低減措置を検討・実施する必要があること。
講演5「住宅改修工事における労働災害防止対策について-屋根・はしごからの墜落防止対策を中心として-」
  建設安全研究グループ 上席研究員 日野泰道
概要  住宅改修工事において、屋根・はしごからの墜落災害が多く発生している。そこで、屋根・はしごからの墜落防止対策を中心に、以下の点について説明した。
1) 労働安全衛生規則における墜落防止対策について
 労働安全衛生規則における墜落防止対策の基本的な考え方を紹介した。
2) 基本となる墜落防止対策について
 墜落防止対策の基本となる「作業床の設置」および「囲い等の設置」の具体例を挙げて、当該災害防止のための考え方を示した。
3) 墜落防止対策で使用する安全用具について
 日本において長年使用されてきた胴ベルト型安全帯や、近年使用されることが多くなったハーネス型安全帯の特徴などについて紹介した。
4) 短期間で行われる屋根工事で使用可能な工法について
 当研究所で開発した短期間で行われる屋根工事で使用可能な工法等について紹介した。


(写真)大阪会場の様子


(写真)東京会場の様子


(労働災害調査分析センター 主任研究員 水谷高彰)

刊行物・報告書等 研究成果一覧