労働安全衛生総合研究所

第10回労働衛生に関するWHO協力センターのグローバルネットワーク会議(10th Meeting of the Global Network of WHO Collaborating Centres for Occupational Health)に参加して

1.国際労働衛生会議に合わせて開かれるグローバルネットワーク会議


 2015年5月28、29日に行われた第10回労働衛生に関するWHO協力センターのグローバルネットワーク会議(10th Meeting of the Global Network of WHO Collaborating Centres for Occupational Health)に、理事の福澤義行と参加しました。会場は韓国済州島のホテルでした(写真1)。
ホテル・ポスター
写真1 会場となったKAL Hotel Seogwipoと今回の会議のポスター

 このグローバルネットワーク会議は毎回、国際労働衛生会議(International Congress on Occupational Health, ICOH)の直前に行われます。今回のICOHは韓国・ソウルで開催されたので、それに合わせた形です。世界各国の労働衛生に関するWHO協力センターが集まり、活動の現状と今後について議論します(参考.安衛研ニュース:WHO労働衛生協力センター世界ネットワーク(世界ネットワーク)会議WHO労働衛生協力センター世界ネットワーク(世界ネットワーク)会議2)。
 今回の会議の目的は次の3つでした:(1)前回の会議(2012年、メキシコ・カンクン)で採択された基本計画(Global Master Plan, GMP)について進捗状況の評価と更新の提案、(2)2015年以降の戦略的方向性について、特に、全ての人々が健康に安全に働けるなど持続可能な発展目標(Sustainable Development Goals, SDG)を考慮して議論、(3)グローバルネットワークの今後の活動に関する作業指針を策定。

2.会議の概要


1)グローバルネットワーク会議
 正味1日半にわたる会議では、5つのセッション(写真2)と2つのワールド・カフェ(小人数のグループに分かれた議論)が行われました。それに先立ち、WHO本部より、協力センターの行動計画(Global Plan of Action, GPA)の現状について説明がありました。延べ7つの優先課題のうち、明示的な成果が産まれたなど目標が達成あるいは一部達成された課題もあれば(例えば、WHO/ILO Tool for Work Improvement in Healthcare Facilities, Health WISE)、現在進行中の課題もありました(例えば、工業ナノ材料の安全衛生に関するガイドライン)。
 セッション1では行動計画の進め方に関して、ガイドラインの作成法、健康政策や制度、疾病分類、非感染性疾病などについて包括的な説明がありました。また、2015年から2017年の基本計画に関して、更新すべき点も紹介されました。
会場の様子
写真2 会場の様子

 セッション2ではWHOと協力センターとの関係や各種のルールなどについてビデオによる説明がありました。
 セッション3では2015年からの労働衛生に関してSDGを貧困の終焉、健康生活の確保、そして働きがいのある人間らしい仕事(decent work)という3つの側面から取り上げ、グループ討議を行いました。
 セッション4ではグローバルネットワークの活動を今後どのように発展させていくかについて議論が行われました。ガイドライン、ガイダンス、ツールキットなどの成果物の提供は重視されるとともに、専用ウェブサイトなどによって世界的に共有する意義も強調されました。しかも、そのような成果物が途上国、労働衛生水準の低い地域や産業部門などに有用であれば、さらに望ましいことも指摘されました。また、今後の活動に関する作業指針(案)も示され、協力センターからの意見をもって最終版化されるそうです。
セッション5では全体の総括がなされ、次回の会議がアイルランド・ダブリンにて2018年4月29日から始まるICOHの直前に行われる旨、通知がありました。

 さて、ワールド・カフェというのは、とても面白い議論の方法です(写真3)。ある問題について1つのテーブルで30分討議し、次の30分は別な問題について別なテーブルで意見交換するというのを繰り返していきます。もし1テーブルに10名、全体で90分とすると、各テーブルでは延べ30名からアイデアや提案を受けることができます。こうすることで、グループ討論でよくあるような、1テーブルで一定数の参加者が一定時間にわたって議論するのに比べて、より多くの参加者から意見を集められるようになります。
ワールド・カフェの様子
写真3 ワールド・カフェの様子

 1回目のワールド・カフェでは合計7つのテーブルがありました。最初のテーブルは職場での健康促進に関する訓練資料を世界的にどのように集めるかについて議論しました。こうした資料は多くが英語で作られるため、母国語が英語ではないと苦労するという意見にはまったく同感でした。それに対して、別な協力センターが母国語への翻訳を支援してはどうかという提案があり、ネットワーク化の素地を感じました。文字が難しければ、イラストや映像を使うという案も出されました。これは言語の面からだけではなく、教育レベルの違いにも対応できるので、有効となるように思いました。
 次のテーブルは各種ツールの試行と評価に関するもので、よいツールの見分け方、ツールの使い方の習得、対象者(労働者向けか、専門家向けか)の決め方などについて意見が出されました。
 最後のテーブルは途上国やインフォーマルセクターで活用できるツールの開発について議論しました。できるだけ簡単なツールの必要性、各職場のニーズをしっかり把握することの重要性、労働衛生の保障は生産性や収益の確保にもつながることの強調などが指摘されました。
 2回目のワールド・カフェでは合計6つのテーブルのうち、2つに参加できました。最初は職業上のリスクに伴う「世界の疾病負担(Global Burden of Disease)」が取り上げられ、各国における指標作りの違いを考慮する重要性などが議論されました。
 次のテーブルでは職業病の早期発見に関するものでした。一般の勤務医のみならず、一般の労働者に対する啓発が早期発見に有効となる可能性が指摘された一方で、忙しい勤務医にとって職業病を詳しく診るメリットは何かなどの意見もありました。また、同じ業界内で同じような不調を訴える労働者がいないかどうかチェックできれば、業界として早期発見につながるかもしれないというアイデアも出されました。

2)西太平洋地域におけるWHO協力センターの会議
 グローバルネットワーク会議に続いて、2日目の午後から地域ごとの会議が開かれました。私たちは西太平洋地域(Western Pacific Region, WPRO)の会議に出席しました。参加した他のセンターはオーストラリア(ラ・トローブ大学)、日本(産業医科大学)、韓国(産業安全保健公団、カソリック大学)、シンガポール(人的資源省、シンガポール国立大学)、ベトナム(職業環境保健研究所)で、オブザーバーとして香港(職業安全健康局)が参加していました(写真4)。
地域別(WPRO)会議の参加メンバー
写真4 地域別(WPRO)会議の参加メンバー

 WPROにはカンボジア、ラオス、ベトナム、モンゴルの4カ国に対する支援を強化するという方針があります。これらの国々について、労働衛生の現状把握(プロファイルの作成)、サーベイランス・システム、労働衛生サービスのあり方、リスク評価とマネジメントに関する助言や指導、そして支援の可能性を審議しました。当研究所としては再指定の課題でもある、温熱ストレスと過労を予防するためのツール開発に貢献できることを提案しました。これらは上記4カ国で課題となる鉱業部門やインフォーマルセクターにおける労働衛生の改善に応用可能と考えられます。また、ILOアジア太平洋地域総局やASEANとの連携強化についても提案しました。
 次回のWPRO会議は2016年8月、シンガポールの「職場の安全と健康に関する会議」(Workplace Safety and Health Conference)に併せて開かれることになりました。

3.まとめ


 WHO本部並びに地域事務局と協力センターとのつながり、また協力センター同士のつながりは、WHO協力センター活動の重要な原則として、いつも求められます。今回の会議では、これらのネットワークを強めるような仕掛けがいくつもありました。韓国は今回の会議を支援するとともに、ICOHも主催しました。いずれもかなりの労力を払っているはずですが、グローバルな組織とのつながりをもった活動に価値を置いていることがよく分かります。
 今回の会議における当研究所にとっての目的の一つは、協力センターの再指定に必要な書類をWHOおよびWPROと協議し、確定させることでした。実際には2日目の午前中に、事前に送っておいた素案について両者と検討し、改訂を行いました。この会議を終えて、ICOH参加のために移動したソウルでも、両者の担当者とメールで調整を行いました。その結果、6月7日に内諾が得られ、翌8日に書類申請できました。現在の指定期間の終わる7月初旬までに吉報が届くのを期待しております。

(過労死等調査研究センター長代理 高橋正也)

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