労働安全衛生総合研究所

入浴介助機器に適用する感圧式挟み込み検知センサーの検討

1.はじめに


 社会福祉施設で働く介護作業者の腰痛発症件数の多さが大きな問題となっており、対策の一つとして、福祉機器の積極的な利用が推進されています 1)。特に、入浴の介助は、浴槽/浴室/脱衣場間での移動等腰部負担の大きい作業が多く、特殊浴槽やバスリフト等の動力を用いた機器が利用されます。
 しかし、我々が施設等を訪問して調査したところ、これら入浴介助機器の中には、写真1に例を示すように、指や手等が挟まれるおそれのある部分(以下、挟圧部と呼びます。)があり、機器の構造や設計の工夫又は安全装置の適切な装備といったリスク低減が不十分と言わざるを得ない製品もありました 2)。また、調査した範囲では実際に災害に至った例はありませんでしたが、機器の可動部の隙間や機器の一部と蛇口等周囲突起物との間で指を挟みそうになったヒヤリハット経験の報告も聞きました。


写真1 入浴介助機器の挟圧部の例

 そこで、当研究所では、これまで自動車製造ラインや工作機械等の産業機械で培われた安全技術を応用するアプローチで、動力を用いる入浴介助機器のリスク低減を総合的に研究しています。このうち、今回は、写真2に示す入浴用ストレッチャ式電動リフト(以下、電動ストレッチャと呼びます。)を対象に検討している感圧式挟み込み検知センサーについて述べます。


写真2 本研究で対象としている入浴用ストレッチャ式電動リフト

2.機械のリスクを低減する安全設計の基本


 「機械の包括的な安全基準に関する指針」3)にも記されているように、挟圧部については、機械の形状や機構を工夫し、身体の一部が進入できない程度に狭くするか又は挟まれることがない程度に広くすることが、まず検討すべき対策です。しかし、機械によっては目的の作業を実行するためにやむを得ず挟圧部が生じてしまう場合があり、このときに、覆いやガードを設けて人の接近を防ぐ「隔離の安全」又は人の接近をセンサー等で検知して機械を停止させる「停止の安全」の適用を検討することになります。
 対象としている電動ストレッチャでは、浴槽との間で生じる隙間のほとんどは指が挟まれることがない程度に広いことが測定の結果分かりました(写真3参照)。ただし、被介護者の入浴のために浴槽内に寝台を降下させていく過程で、写真4に示す位置で寝台の一部が浴槽の縁に接するようになっていました。そこで、寝台の縁にセンサーを設け、何かに当たったら寝台の降下が停止する「停止の安全」を適用することにしました。今回述べる挟み込み検知センサーは、このためのものです。


写真3 電動ストレッチャと浴槽との間で生じる隙間の測定


写真4 寝台の端と浴槽の縁との間で生じる挟圧部

3.感圧式挟み込み検知センサーに求められる特性


 人又は障害物の存在を検知するセンサーは、大きく分けて、光線式安全装置のように物には触れない構造のものと、エレベータの扉の自動反転装置のように物に触れる構造のものとがあります。今回検討しているセンサーは湯水に浸される箇所に設置して使用することから、本研究では、物との接触で生じる圧で挟み込みを検知する感圧式挟み込み検知センサーを適用することにしました。しかし、感圧式挟み込みセンサーは、原理的に、接触を検知した段階では既に人体の一部を挟んでしまっているので、それから寝台が停止するまでの遅れ時間で、挟まれた一部がさらに圧迫されることを考慮に入れなければなりません。
 そこで、写真5に示す、電極フィルムと樹脂スペーサからなる感圧部の上に柔らかいクッションを内蔵した構造のセンサーを試作しました。その特性を試験した結果、指に見立てた丸棒(直径20mm)に触れ約5 Nの力が加わると、電極が接して導通して物の挟み込みを検知しますが、それからさらに押し込んでもクッションにより丸棒に加わる力の増加は緩やかでした。


写真5 試作した感圧式挟み込み検知センサーの構造

4.電動ストレッチャへの適用


 前章で述べた特性を実機で確認するため、写真6に示すように、試作したセンサーを寝台の裏面に取り付け、挟み込み検知後の押しつけ力を計測しました。計測は、日本人の標準体型寸法のダミー(60kg)と錘(20kg)を乗せた状態で、寝台を水平に力測定器の上に降下させ、かかる力を測る方法で行いました。その結果、この電動ストレッチャでは、寝台が停止信号が発せられてから停止するまでに約2 mm降下しますが、試作したセンサーの特性によって力は約7 Nに抑えられます。


写真6 試作した挟み込み検知センサーの取付けと挟み込み検知後の押しつけ力の計測

 ただし、このセンサーが使用される環境条件として、少なくとも、①電動ストレッチャは指定の除菌洗浄液により毎使用後と1日の終わりに洗浄されること、②最高45℃の湯に浸されることの2点は考慮しなければなりません。そこで、まず、①については、外皮である塩化ビニルシートの耐薬品性を、指定のクワット系消毒洗浄液を規定の4倍の濃さで希釈した溶液に浸しておくことで調べました(写真7参照)。塩化ビニルは、酸/アルカリ/溶剤に対し優れた耐性をもつことで知られますが、試験の結果、120時間経過後も特に変質等は見られませんでした。また、②については、温湿度環境試験装置を使って、写真8に示すように、50℃の湯に浸けた状態で5秒に1回の頻度で丸棒を押し付ける試験で評価しています。これまで得られた結果では、43000回(60時間)まで耐えられることを確認しました。


写真7 センサー外皮の耐薬品性試験


写真8 環境試験装置を使ったセンサーの高温耐久試験


5.おわりに


 動力を用いる入浴介助機器のリスク低減に関する研究のうち、電動ストレッチャに適用する感圧式挟み込み検知センサーの検討結果を紹介いたしました。さらなる課題として、現在、このセンサーを実装した電動ストレッチャの使い勝手について、日頃の業務でこのような電動ストレッチャを操作・使用している介護作業者の方々に評価していただくことを計画しています。機械の安全化対策が有用と評価されるには、災害を防止する機能だけでなく、十分な信頼性を有し、かつ機械本来の作業性が損なわれないことが要求されます。特に、福祉機器を扱う介護作業者にとっては、機器の安全化に伴う使い勝手の悪化は重大な問題で、場合によっては機器の利用を敬遠させる結果になるためです。今回述べたセンサーの検討にあたっては、我々も機器の使用状況を見学した上で臨んでいますが、福祉機器の場合には介護現場ごとに使い方が細部で異なることも多く、様々な視点から意見を集め、機器を使用する介護作業者の方々の安全に貢献できればと考えています。


(機械システム安全研究グループ 上席研究員 齋藤 剛 )

参考文献
  1. 厚生労働省、”社会福祉施設における安全化対策–腰痛対策・KY活動–”(2013)
  2. 岡部康平、芳司俊郎、池田博康、岩切一幸、“入浴介助機器における介護労働者のための安全管理の検討”、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集2014(CD-ROM)、3P2-X05(2014)
  3. 厚生労働省、“「機械の包括的な安全基準に関する指針」の改正について”、平成19年7月31日基発第0731001号(2007)

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