労働安全衛生総合研究所

高引火点引火性液体ミストの静電気放電による着火

1.静電気と火災


 冬季は特に空気が乾燥し静電気が起こりやすくなります。皆様も日常生活において下記のような現象を通じて静電気の存在を身近に感じていることと思います。
 ・上着を脱ぐ時にパチパチ聞こえる
 ・金属製品に触れる時に指先からバチッと青白い光が出る
 ・髪の毛が広がる
 このうち、上の二つは静電気放電と呼ばれる現象であり、摩擦等によって人体や衣服に蓄積された静電気(電荷)が音や光を伴って別の物体に移動することです。このような静電気放電は、日常生活においては少しばかり不快なことを除けば特に実害はありません。しかしながら、可燃性ガスや引火性液体を多く取り扱う化学工場等の現場では着火源の一つとして大変恐れられています。消防庁火災年報によると、静電気を原因とする火災は年間100件程度発生しています。

2.液体の引火点


 静電気放電は、可燃性ガス(プロパン等)や、引火性液体(ガソリン等)、可燃性粉体(トナー等)のような可燃性物質を着火させ、火災を引き起こします。ただし、これらが着火し火災に至るためには下記①∼③の条件が揃う必要があります。
 ① 空気中のガス、液体蒸気・ミスト、粉じんの濃度が適当であること(低すぎても高すぎても燃焼しない)
 ② 空気中の酸素濃度が十分であること
 ③ 着火源となる静電気放電のエネルギーが十分であること
 上二つの条件を満たす空気を可燃性混合気と呼びます。ここで、引火性液体に着目すると、一つ目の条件を満たすか否かは液体の引火点が鍵となります。引火点とは、燃焼に必要な濃度の蒸気が液面から発生し始める温度のことであり、ガソリンでは-40℃程度、灯油では40℃程度となります。常温下(気温20℃程度)でこれらの液面付近で静電気放電を起こし点火させようとした場合、ガソリンは十分な濃度の蒸気を形成するため容易に着火しますが、灯油は蒸気濃度が低いためいくら大きなエネルギーの静電気放電を起こしても着火しません。ちなみに寒い時期に活躍する石油ファンヒーターは灯油を燃料としますが、内部で灯油を加熱し気化させ、これを空気と混合し点火プラグ(電気火花を発生する点火装置)で着火させています。
 上記のように、灯油等の高引火点引火性液体は、常温では十分な濃度の蒸気を形成しづらく、火災の原因となりづらいため、災害事例の数も低引火点引火性液体と比較して少なくなります1)。しかしながら、高引火点引火性液体でも、ミスト状態になると常温で着火するようになるため注意が必要です。


3.高引火点引火性液体ミストの着火特性


 高引火点引火性液体のミストはどのような着火特性を示すのでしょうか。筆者らが灯油について実施した実験をご紹介します2)。実験時の気温は約15℃であり、灯油の引火点以下です。
 本実験では、ミストの点火装置として、可燃性粉じんの着火エネルギー測定で活躍する吹上式粉じん爆発試験装置(Adolf-Kühner社製、MIKE-3)を使用しました。本装置は、容積1.2 Lのガラス製爆発容器内に圧縮空気で吹き上げられる粉じんを火花放電(静電気放電の一種)で着火させるものです。ただし、本実験では不要のため、粉じんの吹上げに関わる部品は全て取り外しました(図1)。ミストの生成には医療用超音波式ネブライザーを使用しました。生成された灯油ミストの粒径は約5 μm(メディアン径)、1秒間あたりのミスト生成量は約16 mgでした。実験の流れは下記①∼④の通りです。
 ① 放電電極の間隔を設定(2 mm、4 mm、6 mmの3通り)
 ② 火花放電エネルギーを設定(1 mJ、3 mJ、10 mJの3通り)
 ③ 爆発容器内に灯油ミストを充填する(充填時間は、3秒、5秒、10秒、20秒の4通り)
 ④ 火花放電を発生させ、着火の有無を確認する
 実験の結果を表1にまとめました。まず、火花放電エネルギーに着目すると、複数の条件において1 mJでの着火が確認されました。実験装置の限界により1 mJ以下での測定はかないませんでしたが、この結果から、灯油ミストは1 mJ以下でも着火する可能性があります。
 次に、充填時間に着目すると、充填3秒では全てのエネルギーで非着火、5秒以上の場合には1 mJでも着火することが確認されました。これは、5秒以上の充填により、ミスト濃度が燃焼に必要なレベルを超えるためと考えられます。蒸気状態の灯油が燃焼する濃度範囲は0.7 vol% ∼5 vol%です。5秒充填時のミスト濃度を同様の単位に換算すると0.74 vol%となり、上記の濃度範囲内に入ることが分かります。
 さらに、電極間隔に着目すると、間隔2 mmでは10 mJまでは非着火でしたが、間隔4 mm、6 mmでは1 mJでも着火することが確認できました。これは、電極間隔4 mm、6 mmと比較して、電極間隔2 mmで発生する火花放電は着火能力が低くなることを示しています。可燃性粉じんについても電極間隔4 mm~7 mmで最も着火しやすいことが報告されています3)
 以上の結果から、灯油ミストの着火特性について、灯油蒸気や粉じんの着火特性との類似点が見出されました。また、1 mJと低エネルギーの火花放電でも着火したことから、各種静電気放電でも着火する可能性があると考えられます。


図1 実験装置の概要

図1 実験装置の概要


図2 灯油ミスト着火の様子

図2 灯油ミスト着火の様子


表1 実験結果

表1 実験結果

4.おわりに


 本コラムでは、常温下ではなかなか着火しづらい高引火点引火性液体について、ミスト状態での着火特性を紹介しました。筆者らが行った実験の結果から、ミスト状態の灯油は、火花放電をはじめとする各種静電気放電により着火する可能性があることが示されました。高引火点引火性液体の代表格である灯油や軽油は、配管内を流動する際などに静電気帯電し、着火源となる静電気放電を起こす可能性があります。これらの液体を取り扱う際には、可燃性ガスや低引火点引火性液体蒸気のほかに、これらがミスト化した場合にも静電気放電で着火する恐れがあることを常に念頭に置いて取り扱う必要があります。


参考文献
  1. 職場のあんぜんサイト:労働災害事例, https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_FND.aspx
  2. 遠藤雄大, 崔光石, 灯油ミストの着火特性の調査, 安全工学, 60-3, pp.191-197 (2021)
  3. 石浜渉, 榎本兵治, 駒井武, 梅津実, 盧鑑章, 粉じん雲の着火エネルギーに関する研究Ⅱ—従来型火花放電発生装置による着火エネルギーの測定—, 安全工学, 22-1, pp.25-31 (1983)

(電気安全研究グループ 主任研究員 遠藤 雄大)

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