労働安全衛生総合研究所

熱中症発症の地域差及び年齢差

1.はじめに


 地球温暖化に伴った夏季屋外気温の上昇により業務上熱中症による死傷者は毎年500人を超え、人口動態統計による熱中症死亡者も全国で年間1000人を超えています。日最高気温が32℃を超えると熱中症による暑熱障害が増えるという報告や、35℃を超えると死亡災害が増えるという報告があります。今世紀末には夏季屋外気温がさらに上昇すると予想されることから熱中症対策の必要性が増しています。
 暑熱環境で発症する熱中症には地域差があることが指摘されています。米国での熱波による死亡率では、南部よりも北部で高いことが報告されています。日本においても北は北海道の亜寒帯から南は沖縄の亜熱帯まで国土が南北に長いため気候の差が大きく、気象条件に対する熱中症の発症率が地域により異なることが予想されます。
 年齢も熱中症発症に影響を及ぼすことが知られています。人間は恒温動物であり、環境温度が変わっても体温を一定に保つ機能があります。しかし、高齢者では心肺機能や体内水分含有率が低下するため、体から環境への放熱機能が低下し熱中症発症率が高まります。記録的な猛暑の年であった2010年には1731人が熱中症で死亡し、その内65歳以上の高齢者は79.3%を占めました。
 熱中症では死に至る危険性がありますが、十分に対策することで予防することが出来ます。ISO7243 [1]やACGIH-TLV [2] 等の国際基準は熱中症を予防するために作られていますが、地域差や年齢差は考慮されていません。本稿では、熱中症による救急搬送データと気象データを用い、熱中症発症に与える地域差や年齢差を定量的に分析した結果[3]を紹介します。


2.熱中症による救急搬送者数と気象条件の分析方法


 総務省消防庁が発表した夏季における47都道府県の日別熱中症救急搬送者数と環境省が公表している各地域のWBGT値及び厚生労働省の人口動態統計をリンクして、熱中症発症に及ぼす地域差と年齢差を求めました(図1)。

図1 各県熱中症救急搬送者数と日最高WBGT及び人口動態を用いた熱中症発症の地域差及び年齢差の分析

図1 各県熱中症救急搬送者数と日最高WBGT及び人口動態を用いた熱中症発症の地域差及び年齢差の分析


 47都道府県のWBGT値は各都道府県内の最も人口が多い3都市の日最高WBGT値を当該都市の人口で加重平均して求めました。北海道は6都市の日最高WBGT値を用いました。各都道府県の3つの年齢階層 (7~17歳、18~64歳、65歳以上)について日最高WBGT値と単位人口当たりの熱中症救急搬送者数との関係を求めました。北海道、宮城県、大阪府の例を図2に示します。

図2 代表的な道府県の各年齢階層における日最高WBGTと熱中症救急搬送者数との関係

図2 代表的な道府県の各年齢階層における日最高WBGTと熱中症救急搬送者数との関係


 日最高WBGT値に対して指数関数的に熱中症救急搬送者数が増加していました。そのため、日最高WBGT値と熱中症救急搬送者数のグラフを指数関数でフィットして、人口10万人に1人の割合で熱中症により救急搬送される時の日最高WBGT値(W1)を47都道府県の3つの年齢階層に対して予測しました(図3)。W1を比較することで熱中症発症の地域差及び年齢差を定量的に推定しました。

図3 47都道府県の夏季日最高WBGTの平均値に対する10万人に1人の割合で熱中症救急搬送される時の日最高WBGT(W<sub>1</sub>) [3]

図3 47都道府県の夏季日最高WBGTの平均値に対する10万人に1人の割合で熱中症救急搬送される時の日最高WBGT(W1) [3]


3.熱中症発生状況の地域差と年齢差


 W1の最も大きな地域差は、7~17歳で4.5℃(北海道と東京都)、18~64歳で4.8℃(北海道と東京都)、65歳以上で3.9℃(北海道と沖縄県)でした。夏季平均の日別熱中症救急搬送者数は、暑さが厳しい西南の地方が多くなりました(図4a)。一方、気象条件を日最高WBGT30℃に揃えると、北海道や東北地方が多くなりました(図4b)。年齢差に関しては、65歳以上が最もW1が低く、次が7~17歳で、18~64歳は最も高くなりました。夏季日最高WBGT平均値が最も多い32℃でのW1は、65歳以上で29.8℃、7~17歳は31.1℃、18~64歳は32.4℃でした。65歳以上は、18~64歳と比較して日最高WBGTが2.6℃も低くても同じ人数だけ熱中症で救急搬送されることを示しており、大きな差となりました。


図4 47都道府県別の熱中症による救急搬送者数

図4 47都道府県別の熱中症による救急搬送者数


4.まとめ


 世界的な暑熱基準であるISO7243 [1]や温熱に関する米国のACGIH-TLV [2]では、地域差や年齢差は考慮されていませんが、米国では3つの地域に分けてそれぞれ異なる暑熱基準を設定している文献もあります[4]。カナダでは熱中症警戒情報を発令する基準に地域差が考慮されています[5]。今後、地球温暖化がさらに進行して熱中症がより深刻な社会問題となることが予想されます。重大な災害を未然に防ぐためにも地域差や年齢差を考慮に入れたより細かな熱中症対策が期待されます。


参考文献

  1. International Organization for Standardization (ISO). Ergonomics of the thermal environment - Assessment of heat stress using the WBGT (wet bulb globe temperature) index. (Standard No. ISO 7243: 2017), Geneva, Switzerland: ISO; 2017.
  2. American Conference of Governmental Industrial Hygienists (ACGIH) 2022 Threshold limit values (TLVs) for chemical substances and physical agents and biological exposure indices (BEIs). Cincinnati, OH: American Conference of Governmental Industrial Hygienists; 2022.
  3. Ueno S, Hayano D, Noguchi E, Aruga T. (2021) Investigating age and regional effects on the relation between the incidence of heat-related ambulance transport and daily maximum temperature or WBGT. Environ Health Prev Med 26. 116.
  4. Grundstein A, Williams C, Phan M, Cooper E. (2015) Regional heat safety thresholds for athletics in the contiguous United States. Applied Geography 56; 55-60.
  5. MSC Heat Warning Criteria(https://www.canada.ca/en/environment-climate-change/services/types-weather-forecasts-use/public/criteria-alerts.html#heat)[カナダ政府のページへ]

(環境計測研究グループ 統括研究員 上野 哲)

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