労働安全衛生総合研究所

道路貨物運送業における過労死等としての精神障害の労災認定事案について

1.はじめに


 「道路貨物運送業」とは、営業用トラック(緑地ナンバープレート)による陸上貨物輸送を行う業種です1)。この業種で働く人々の過労死等としての精神障害を雇用者100万人当たりの労災補償の支給決定(認定)件数でみると、図1に示したように令和2(2020)年度を除き支給決定件数の多い3業種の中で最多という深刻な現状であることが分かりました。道路貨物運送業では過労死等としての脳・心臓疾患が最多であることはよく知られていますが、精神障害も上位を占めることに注意を払う必要があります。
 当コラムでは、道路貨物運送業の精神障害の労災認定事案(平成22(2010)~29(2017)年度)を対象とした労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターにおける「精神障害の調査復命書のデータベースかつ労災認定事案」を使用した研究結果2,3)をご紹介します。

図1.  道路貨物運送業,社会保険・社会福祉・介護事業,医療業の対雇用者100万人当たりの精神障害の支給決定(認定)件数(H25-R3年度,9年間)

図1.  道路貨物運送業,社会保険・社会福祉・介護事業,医療業の対雇用者100万人当たりの
精神障害の支給決定(認定)件数(H25-R3年度,9年間)


2.道路貨物運送業における精神障害の概要


 精神障害の労災認定件数は、トラックドライバーが149件(62.9%)、トラックドライバー以外の非運転業務(運行管理者、事務職、管理職、倉庫職等)者が88件(37.1%)の合計237件(100%)でした。これを男女別にみると、男性が214件(90.3%)、女性が23件(9.7%)でした。
 今回対象にした精神障害事案は、平成23(2011)年12月に改正された「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて労災認定が行われたものです4)。同事案では、発病前おおむね6か月の間に起きた業務による出来事について、特別な出来事と36の出来事からなる「業務による心理的負荷評価表」にて評価しています。特別な出来事の類型は心理的負荷が強度のもの、極度の長時間労働の2つで、36の出来事の大きな分類は①事故や災害の体験、②仕事の失敗、過重な責任の発生等、③仕事の量・質、④役割・地位の変化等、⑤対人関係、⑥セクシュアルハラスメントの6つになります。
 表1はこれらの出来事を、「長時間労働単独による認定(長時間)」、「長時間労働と長時間労働以外の出来事による認定(長時間+他出来事)」、「長時間労働以外の出来事による認定(他出来事)」に分けた結果です。長時間労働関連の出来事は、極度の長時間労働と③仕事の量・質が該当し、それ以外の出来事が長時間労働以外になります。トラックドライバーの52.3%が長時間労働関連と認定され、非運転業務者の場合は73.9%でした。それに加えて、長時間労働になった理由について分析した結果、トラックドライバーでは「入社当時から仕事の質・量が共に長時間労働」が30.8%で最も多く、非運転業務者は「配置転換・転勤」が23.1%であり、その主な理由は仕事の内容の変化による不慣れや異動先での職務の増加、その次の「業務拡大・増加」は18.5%であり、その主な理由は通常業務に加えて新規事業の担当や荷扱い時間帯の変更等でした。

表1.  全体及び職種別の労災認定事案の3つの出来事


表1.  全体及び職種別の労災認定事案の3つの出来事

3.トラックドライバーの交通事故等による精神障害


 交通事故や自然災害等の深刻なイベントにより引き起こされる精神障害の一つに、心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorders,PTSD、以下PTSD)5)があります。トラックドライバーの精神障害ではPTSDが全体の88.9%を占めていました。発症事例を具体的にみると、交通事故(加害者または被害者)、ケガによる職場復帰不能、事故による死の恐怖等によるものでした。一方、交通事故による車両修理代等の金銭負担による精神障害の発症事例もありました。交通事故の保険金が支払われず自己負担をする際の免責金額6)や、車両修理費用等の金銭負担の発生は、実質的な給与の減額に相当し、これによる生活の不安等から精神障害を発症した可能性が考えられます。業務中に発生した事故災害の責任をすべて従業員に課すべきではないという指摘7)もあります。そのため、従業員の金銭負担については会社側にも適正な対応が必要と考えられます。このような交通事故等による従業員の金銭負担は他の業種では見られない事案のため、道路貨物運送業の精神障害の特徴の一つと考えられます。


4.まとめ


 現在、国内に道路貨物運送業は約63,000社あり、その約90%が従業員数50人未満の会社です1)。しかし、50人未満の事業場では産業医の選任やストレスチェックの義務はありません。過労死等としての精神障害を防止するのはもちろんのこと、精神的に健康な職場をいかに実現するかがこうした中小事業場でも課題になっています。


文献

  1. 全日本トラック協会.日本のトラック輸送産業-現状と課題-2022. https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/yusosangyo2022.pdf
  2. 茂木伸之,松元俊,久保智英,他.運輸業における精神障害事案の解析-運転業務と非運転業務について-.過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究-令和2年度総括・分担研究報告書.2021;143-151.
  3. 茂木伸之,高橋正也.道路貨物運送業における精神障害の事案の解析. 過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究-令和3年度総括・分担研究報告書.2022; 55-62.
  4. 厚生労働省. 心理負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日基発1226).2011.
  5. 福永浩司,矢吹悌,高畑伊吹,松尾和哉. 心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の心的機序と治療戦略. 日薬理誌 2018;152:194-201.
  6. 日本損害保険協会.損害保険Q&A Web版「そんぽ相談ガイド」2022. https://soudanguide.sonpo.or.jp/basic/pdf/book_soudan_basic.pdf
  7. 龍ヶ崎労働基準監督署.道路貨物運送業における労務管理上の留意点について.https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/library/ibaraki-roudoukyoku/corner_kantoku/ryuugasaki/h2602_06unsou.pdf

(過労死等防止調査研究センター 特定有期雇用職員  茂木 伸之)

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