労働安全衛生総合研究所

研究報告 RR-2005 の抄録

静電粉体塗装用塗料の着火性に関する研究(その1)

RR-2005-01
崔光石, 山隈瑞樹, 鄭載喜
 近年、静電粉体塗装は一般の吹付塗装に比べ,生産効率が高く,環境にやさしいという大きなメリットから普及率が極めて高い。しかし,静電粉体塗装は高電圧印加により塗料を帯電させ,接地した被塗物に向かって移動させる工程であり,放電による粉塵爆発・火災の発生が危倶されていることから,粉体塗料の最小着火エネルギー(MIE)を測定した。測定には,国内外で標準的に用いられているIEC規格に準拠した吹上げ方式着火試験装置(ハルトマン式、MIKE-3)を使用し,着火試験用粉体塗料としては,ポリマーを主成分とする粉体塗料(ポリエステル,エポキシ,ポリエステル/エポキシ,アクリル,ナイロン)及び5種類(色別)のポリエステル粉体塗料の計10種類を用いた。その結果,粉体塗料は数mJの小さい放電エネルキーでも着火する危険性が明かとなった。特に,粉体塗料の粒径を考慮すると、エポキシ粉体塗料の方が他の粉体塗料に比べて,着火しやすいという結果が得られた。また,粉体塗料に含まれている顔料などの成分によっては,MIEはほとんど変化しないことが明らかになった。(図5,表2,参考文献19) 

噴霧・噴出帯電の静電気危険性評価法の検討

RR-2005-02
大澤敦
 配管やノズルなどから液体が噴出すると液体および液滴に静電気が帯電して着火源となることがあるので,各種工程の現場において簡便に噴霧・噴出帯電の静電気危険性を評価する方法を構築することは工程の安全化と静電気による着火の防止対策の指針を与え,安全工学の立場からも重要である。本研究では噴霧・噴出の静電気危険性を評価するための測定技術とこの測定データを元に評価する手法を構築することを目標としている。測定技術として接地円筒ケージと電界計による空間電荷密度の測定,吸引ファラデーチューブによる空間電荷密度の測定またはフローテイングプローブによる電位測定の3つの方法を検討した。また,評価手法としては,各測定データを元にポアソンの方程式とE=-∇Vを用いて噴霧空間の電界強度分布を求め,静電気放電の可能性を評価する方法を検討した。圧搾空気ドライフォグ2流体ノズルを用いた噴霧帯電のモデル実験により,これらの3つの測定方法を検討して,接地円筒ケージ・電界計と吸引ファラデーチューブの測定が妥当な結果を導き,現場で簡便に測定できることを考慮すると接地円筒ケージ・電界計による方法が適していることを示した。また,静電気放電の可能性を評価するための簡便なモデルも提案している。(図7,参考文献4).

破砕を伴う落石現象の物理モデル化に関する研究

RR-2005-03
伊藤和也,豊澤康男, 日下部治
 落石は道路,鉄道,住宅等へ影響を及ぼす斜面災害の中でも発生頻度が比較的高い災害現象の一つである。また,落石に起因する労働災害について調査したところ,過去10年間で40件程度報告されていた。中には落石が突破・跳躍して落石対策工により保護されている箇所にいた労働者が被災する事例も報告されており,落石の運動形態や衝突現象など,落石対策の計画・設計に必要な事柄についても未だ十分には解明されていないのが現状である。そこで本研究は,多くのパラメーターが自明となり,応力条件を等価にすることが出来る遠心模型実験手法を用い,破砕を伴いながら衝突と跳躍を繰り返すような落石現象について物理モデル化を行い,その運動形態・衝突現象の解明を試みた。本報では,新たに開発した遠心場落石発生装置の概要と,それを用いて行った落石実験の落石軌跡および落石の破砕状況を確認した。その結果,球形タイプの落石形態は回転運動が主であるが,破砕を伴うと回転運動から跳躍運動に変化し,破片は大きな跳躍をすることが確認された。(図4,表5,写真12,参考文献28).

屋根工事における軒先からの墜落防止に関する研究

RR-2005-04
日野秦道
 本報は,低層住宅工事における屋根からの墜落災害に焦点を絞り,災害発生状況とその防止対策について検討を行ったものである。検討の結果,(1)足場先行工法のガイドラインの基準を満たす足場が設置された現場でも,墜落死亡災害が発生している場合があることが分かった。また実験的検討により,(2)墜落防護を完全に行うためには,限られた本数の手摺・中桟を使用する方法では難しいことを明らかにした。これらの結果を踏まえ,墜落防護方法としてネットを用いた方法を取り上げ,その適切な設置方法について実験的に検討を行った。その結果,(3)ネットに衝突後の跳ね返りにより,被災者が頭部を屋根面に強打することで傷害の発生可能性があることが明らかとなった。そのため,(4)屋根からの墜落防止用として安全ネットを設置する場合には,屋根面への跳ね返りを防止するための措置が必要であることが明らかとなった。(図14,表3,参考文献16).

RFIDを用いた広大空間における機械の再起動防止に関する研究

RR-2005-05
深谷潔
 危険空間が広大になると,操作装置の位置から全体を見通すことができず,作業者がその空間内にいても分からず誤って機械を起動し,事故となることがある。このような事故を防止するため,RFIDを用いて危険空間内部の作業者の位置を常時モニターするシステムを開発し,評価した。
 格子状に設置したタグを作業者が所持するリーダーでその位置を読み取るシステムであるが,周りの物の配置により電波の受信距離が異なり遠くのタグを受信することもあり,位置計測の誤差となることがあった。実用化のためには,装置を小型化すると共に誤差を考慮したシステム設計が必要である。(図5,表2,写真3,文献7)

着火性放電を抑制したノズル型除電器の除電特性

RR-2005-06
崔光石, 山隈瑞樹, 児玉勉, 鈴木輝夫, 最上智史
 粉体輸送プロセスにおける静電気トラブルの発生を防止する方法として,粉体の帯電量を静電気トラブル発生レベル以下に制御できるノズル型除電器(コロナ式)を開発した。しかし,コロナ式除電器は,高電圧を利用しているために何等かの原因で異常作動すると,まれに着火性放電を起こし,爆発,火災を誘発する危険性がある。そこで著者らは開発したノズル型除電器の安全性を着火試験によって評価した。その結果,放電針と高電圧源の間に100MΩの高抵抗(結合抵抗)を有する放電電極は,印加電圧が7kV以下(交流又は直流)であれば,放電針からの放電火花が最小着火エネルギー0.1mJ以上の可燃性雰囲気の着火源にならないことが判明した。また,このノズル型除電器を内蔵したフランジ型除電器を実規模大の粉体空気輸送帯電実験装置のサイロ内に設置して,実際に粉体を除電してその効果を調べた。その結果,上記の電圧範囲内で印加電圧を制御することによって粉体の帯電を効果的に除電できることが明らかになった。したがって,本除電器は,改良を加えることにより可燃性雰囲気を伴う粉体プロセスにおける静電気障災害の防止に十分寄与できると考えられる。(図9,参考文献8))

高強度アルミニウム合金重ね継手の疲労き裂モニタリングとその疲労破壊特性

RR-2005-07
佐々木哲也, 本田尚
 高強度アルミニウム合金重ね継手の疲労破壊を防止するために,ボルト内に埋め込んだひずみゲージの出力で疲労き裂をモニタリングすることを試みた。実験の結果,ひずみゲージ出力の平均値よりも変動幅の方が疲労き裂進展に伴う変化の割合が大きく,疲労き裂モニタリングに適していることが明らかになった。なお,ボルト穴に初期切欠きのない重ね継手の疲労破壊位置は,大きく3箇所に分類できたが,いずれの場合も疲労寿命に大きな差はなかった。(図6,写真1,表2,参考文献12)

新遠心模型実験装置(NIIS-Mark II Centrifuge)の開発

RR-2005-08
伊藤和也, 玉手聡, 豊澤康男 , 堀井宣幸
 独立行政法人産業安全研究所では,1988(昭和63)年に遠心模型実験装置Mark-1を導入し,地盤に起因する労働災害の防止に係わる研究に活用している。しかし,制御システムの高度化や対象分野の拡大等によりMark-1の性能には限界が見られるようになってきた。そこで,平成15年度よりMark-1を更新し,新遠心模型実験装置Mark-2の開発を行った。Mark-2はMark-1のピットを流用し,2005(平成16)年2月に完成した。Mark-2は,有効半径が2.3mと中規模の装置にも関わらず,有効半径が5m以上の大型装置並みの搭載スペースを確保しており,国内外の遠心模型実験装置の中でも使い勝手の良い装置の一つであると自負している。
 本報告では,旧装置Mark-1での研究実績,および新装置Mark-2の導入の経緯,基本的な諸元,そして周辺機器について述べる。(図15,表4,写真20,参考文献37)

刊行物・報告書等 研究成果一覧