労働安全衛生総合研究所

安全資料 SD-No.28 の抄録

大型建設機械の不安定性と転倒防止のための安全要件

SD-No.28
玉手 聡,堀 智仁

 本研究では基礎工事用の大型建設機械(以下,くい打機と言う)の転倒防止を目的に潜在する危険を調査し安定使用に必要な要件を検討した.くい打機の不安定さは機械側の要因と設置される地盤側の要因の2つによると考え,不安定メカニズムの解明を試みた.

 くい打機は質量配置がトップヘビーであり,揺動や傾斜に対して潜在的に不安定な構造を有している.加えて,重心位置は中心よりも前側にあるため履帯(基礎)には偏心荷重が働く.そのため地盤支持力は減少し,履帯には不同沈下を生じる危険もある.また工事現場は掘削や埋め戻しが行われるため支持力は均一でなく,自走に伴う揺動を増大させる.

 そこで本研究では,施工現場におけるくい打機の転倒防止について,まず危険要因の整理とそのレベルを明らかにすること,すなわち「何」が「どの位」危険なのかの解明を試みた.そしてその結果に基づいて安全に必要な要件を検討した.

 災害事例の分析並びに実大実験と小型模型実験による機体の挙動解析に基づいて,危険要因を整理しそのレベルを定量化した.機体重心の違いが履帯の支持力に与える影響を実験的に解析するとともに,敷鉄板による養生効果も調べた.くい打機は現場内を移動するため,敷鉄板に対しては移動荷重となる.分散効果は載荷位置によって異なると共に,重複の与え方によっても異なることを明らかにした.
 機体に設定する安定度が大きいほど傾斜角の平均値(.t)は小さくなり,.t の減少に伴って標準偏差も減少することがわかった.接地圧力は揺動に関連した反応であることが確かめられ,支持力のバラツキと表面起伏の増加は同一支持力安全率に対する地盤の破壊確率を増加させることが明らかになった.

 以上のような検討に基づいて,現場内を自走するくい打機の転倒防止に必要な要件を次の通り提案した.

  1. くい打機が自走する際の安定度は10度以上とすることが望ましい.
  2. 設置地盤の支持力安全率の値は3以上とすることが望ましい.
  3. 施工現場の勾配は1.25度以下(約2/100以下)とすることが望ましい.

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