労働安全衛生総合研究所

技術資料 TD-No.7 の抄録

化学物質の危険性に対するリスクアセスメント等実施のための参考資料
— 開放系作業における火災・爆発を防止するために —

TD-No.7
島田行恭,佐藤嘉彦,高橋明子

 平成28 年6 月1 日より、労働安全衛生法第57 条第1 項の政令で定める物及び第57 条の2 第1 項に規定する通知対象物に対するリスクアセスメント等の実施が義務化されている。中小規模事業場においても、業種に関係なく、該当する化学物質を取り扱っている場合は、その取り扱い量や設備規模の大小にかかわらず、リスクアセスメント等を実施しなければならない。厚生労働省では『ラベルでアクション』活動を通じて、GHS ラベルやSDS の活用を推進するとともに、取り扱い物質名や取扱温度などの情報を入力するだけで簡単に化学物質のリスクアセスメント等を実施できるツールを開発し、提供している。また、労働安全衛生総合研究所でも、プロセスプラントにおけるプロセス災害(火災・爆発等)の防止を目的としたリスクアセスメント等の進め方を段階的にまとめた技術資料を提供している。各事業場では、これらのツールや手法を活用したリスクアセスメント等の実施が試みられていると推察される。

 平成29 年「労働安全衛生調査(実態調査)」報告によると、「作業に用いる化学物質の危険性・有害性に関する事項」についてリスクアセスメント等を実施していると回答した事業者は37.0%となり、平成28 年の同調査の結果(31.3%)から増加している。このことは、化学物質リスクアセスメント等実施の義務化に対応する事業場が増えたことが理由の一つと考えられる。一方、事業場の規模でみると、大手事業場ほど実施割合は高く、事業場の規模が小さくなるほど、実施割合は低くなる。特に中小規模事業場では、一般的に安全衛生活動を行う余力が無いと言われ、リスクアセスメント等を実施することができない理由として挙げられている。また、化学物質の危険性に対するリスクアセスメント等の実施には、化学物質の特性の理解や化学反応に関する知識を必要とするため、危険源の特定や火災・爆発発生に至るシナリオを同定するのは難しいとされている。その結果、リスクアセスメント等を実施している事業場においても、その実施状況や実施結果を確認すると、的確なリスク低減措置の実施に結びついていない事例も多く見られる。そのため、リスクアセスメント等を的確に実施し、より安全な作業環境を構築するためには、具体的な情報・資料や支援ツールの提供が望まれている。

 本資料は化学物質を用いる開放系作業を対象とし、化学物質の危険性に対するリスクアセスメント等の実施を、労働安全衛生総合研究所技術資料(JNIOSH-TD-No.5)に示されるリスクアセスメント等の進め方(安衛研手法)に従って実施する際に参考となる考え方や情報を、化学物質リスクアセスメント指針に示された5 つのステップの進め方に従ってまとめている。また、火災・爆発発生に至るシナリオを同定するために、燃焼の3 要素に着目した方法(簡易シナリオ同定法)と、ヒューマンエラーの考え方及び評価手順を提案する。


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