労働安全衛生総合研究所

研究報告 TN-69 の抄録

粉じん爆発の危険性とその防止対策

TN-69-1
内藤道夫,松田東栄
まえがき
 粉じんが爆発するという事実に対する認識は,炭鉱における炭じん爆発の可能性について論ぜられたことに端を発するとされており,1870年頃から可燃性ガスが存在しなくても炭じんのみで爆発することが認められ,1886年にはイギリスでは炭鉱爆発調査委員会が炭じんに爆発性があることを正式に認めた.それ以前のイギリスにおける炭鉱爆発はすべて坑内で発生するメタンが爆発するとされていたのである.大体欧米諸国における炭じん爆発についての研究は19世紀後半から20世紀初期にかけて開始しており,現在ではその成果がかなり上がっていて大規模な炭鉱爆発は減少している.
 我が国における炭鉱爆発も,その大規模なものはほとんど炭じんによるもので,まだ我々の記憶に新しい昭和38年11月,福岡県三池炭鉱の大災害も炭じん爆発であった.このように粉じんの中でも炭じんは爆発性を持ち,危険であることは,過去における数々の大爆発から一般に知られているし,またこのような性質を利用して微粉炭燃焼として利用されている.しかし,他の多くの粉じん類については,かなり昔から爆発災害が発生していながら一般には案外その危険性が知られていない.一般の製造工業における粉じん爆発災害は現状では火薬その他爆発性粉じん類による災害を除けば,可燃性ガスや引火性液体類による爆発災害に比較すると,その発生件数や損害程度はずっと少いが,最近のようにプラスチック工業,有機合成工業,粉末金属工業,飼料工業など技術の進歩により,原料,製品を粉体で取り扱う工程が多くなっており,このような粉体の取扱分野の拡大,取扱量の増大,工程の連続化,スピードアップ化の傾向は粉じん爆発の潜在危険性を増大する結果となっている.実際,最近数年間において何件かの重大な粉じん爆発災害をみている.
 外国の場合,米国火災防止協会(N.F.P.A)の統計によれば1900年以降1956年までの半世紀間に米国全土において1,083件の粉じん爆発が発生し,640名の死者と1,709名の負傷者を出し,損害額は97,828,678弗に達するという.またイギリスにおいては1951年より1960年までの10年間に243件の粉じん爆発が発生し,22名の死者と182名の負傷者を出しており,粉じん爆発による災害は年々増大する傾向がある.このため各国ともこの種の爆発災害の防止には真剣に努力を払っており,我が国も,後述するような事例を見るまでもなく,この種災害の防止に最大の努力を払う必要があろう.
 ただ粉じん爆発は,災害事例となって表面に出る例が比較的少いことと,爆発条件や粉じんそのものの爆発特性において理解し難い面があり,いわゆる一般の常識とまでいっていない面が認められるので,工場事業場におけるこの種災害防止の努力を推進するうえに何等かの参考ともなれば幸いと考え,粉じん爆発の危険性とその防止対策について解説してみる.

爆発圧力測定器の相違の測定結果に与える影響について –防爆電気機器の試験方法に関する一考察–

TN-69-2
鶴見平三郎,林年宏
緒言
 爆発現象を研究するに際して爆発圧力の時間的変化を波形としてとり出して解析することは,ひとつの効果的な手段である.爆発圧力の測定に関しては従来多くの方法が知られており,それぞれに特徴があって優劣がつけがたく,主として測定の対象や条件によって使いわけられているようである.いずれの方法が実際の現象をより正確にとらえているかは容易に断定できないが,測定方法が異なれば同じ現象に対して異なる測定結果をもたらすことが考えられる.
 筆者らは防爆電気機器の試験に際してこの種の問題に対する検討の必要性を感じたが,測定器あるいは測定法が爆発圧力の測定結果に与える影響については,過去に実験的な比較がなされていないので,これらについて検討を加えたものである.
 耐圧防爆構造の電気機器の爆発強度試験においては,機器の内容積に応じて少なくとも8または10 ㎏ / ㎠ の爆発圧力を内部に発生させ,その圧力に耐えることを確認しなければならない.圧力を発生させる方法についてはある程度示されているが,圧力の測定方法については現在のところ特に規定されていない.従って,製造者が強度設計あるいは強度確認のために爆発試験を行ない,その結果を利用しようとしても,測定方法の違いによって圧力値に大きな差があるならば好ましくない結果をもたらすことになるであろう.
 本報では主として爆発強度試験に際して圧力測定のために用いられている測定器類につき,それらの一般的な組合せの幾つかによる測定結果が相対的にどの程度異なるかを比較すると同時に,実験的研究を行なう時の手段としての標準的な爆発圧力の測定方法を検討する資料とするための考察を行なった.


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