労働安全衛生総合研究所

研究報告 TN-75 の抄録

高圧雰囲気下における過塩素酸アンモニウムの燃焼に関する研究(第1報) –高圧下における示差熱分析および熱重量測定–

TN-75-1
森崎繁,駒宮功額
緒言
 強力な酸化剤の1つである過塩素酸アンモニウム(NH4ClO4,以下「過安」)は,危険物として法的にその取扱いが規制されているものであり,それ自体充分な量の酸素を持っているため,雰囲気中に酸素が存在していなくても,還元剤と混合して加熱されたりすると容易に発火,爆燃する。また過安は,それ自身でも急激に加熱されると分解し,爆燃する。したがって,過安のような酸素を多量に含有する化合物の取扱いを誤まると大きな災害を引き起こす危険性があると考えられる。
 本研究では,この種の酸化性物質(過安のはかに,過塩素酸カリウム,過塩素酸ナトリウムなどがある。)の発火,燃焼の危険性を調べるため,高圧雰囲気下において昇温加熱し,熱分析を行なった。
 過安は,3通りの過程を経て熱分解することが確認されており,それらの過程は,低温分解,昇華,および高温分解である。Jacobs と Russell-Jones は,これらの過程をプロント移動による反応機構によって説明している。すなわち,NH4+からClO4-へのプロトン移動が生じ,生成したNH3とHClO4とが反応する(低温分解)か,または気相中に蒸発する,気相中のこれらの分子は,分解している過安から拡散してしまう(昇華)か,またはHClO4の熱分解によって生成したラジカルがNH3を酸化する(高温分解)としている。
 高圧下での過安の燃焼の特性や機構については,よく研究されているが,過安の熱分解は,過安の燃焼と密接な関係があるものと思われる。大気圧以下の雰囲気中における過安の示差熱分析および熱重量測定については,報告されているが,高圧雰囲気下における熱分析については,そのデータが非常に少ないように思われる。
 本報告でほ,高圧示差熱分析計および高圧熱天秤を用いて,過安の高圧のヘリウム,酸素または窒素中における熱分解の挙動を調べ,過安の分解および燃焼危険性について検討した。

高圧雰囲気下における過塩素酸アンモニウムの燃焼に関する研究(第2報) –ヘリウム11気圧下における発火燃焼時の熱量測定–

TN-75-2
森崎繁
緒言
 過塩素酸アンモニウム(以下「過安」)の分解の機構は,過安表面上でNH3とHClO4がまず生成し,ついでそれらの分子が気相中へ逸散するか又はそこで互いに反応すると考えられている。この気相反応は,発熱反応であり,その発熱が過安の分解を早め,ついには爆燃に至ると考えられる。この爆燃は,発熱的であり,また雰囲気の圧力もしくは昇温速度が増加すれば容易に生じ得る。
 圧力が加えられた状態での過安の燃焼については,その燃焼過程のメカニズムを知るためによく研究されている。しかしながら,不活性ガスの加圧雰囲気中における過安の分解時の発熱量については,いまだ報告されていないように思われる。
 この報告では,ヘリウム11気圧中における過安の発火燃焼時の熱量を,新しく製作した熱量計を用いて測定したものである。

発火温度データ(第1集)

TN-75-3
柳生昭三
緒言
 発火温度は物質の発火危険性の程度を温度であらわす特性値で,火災および爆発の予防上重要な数値であるが,可燃性物質全般についてはデータがまだ不備であり,現状では適切な予測方法もないので,今後も実測に頼らざるをえないと考えられる。しかも,発火温度は測定法による影響が一般に大きいので,測定結果をあらわすのに,測定方法,発火のおこる最低温度,温度と発火おくれ時間の関係などを明示する必要があるが,このような記録例は比較的少ない。
 上記の現状から,著者は発火温度データの補充および整備の必要性を感じ,さらにはその推算法を探求するため,数年来基礎的物質についてその測定を行なってきた。そして,すでに測定物質の数は200を越え,その結果の検討により,物質の分子構造と発火温度の関係などがほぼ把握でき,さらに発火温度の予測もある程度できるようになった。これらの検討結果は別に報告するとして,発火温度の測定結果のうち,まずここに100物質についての主要データをまとめて報告する。

建設工事における労働災害の動向

TN-75-4
前郁夫,花安繁郎,鈴木芳美
まえがき
 戦後の復興,昭和30年以降の経済成長の基礎となり,かつ,わが国経済の拡大とともに発展を続けてきた建設事業は,工事の大型化,工期の短縮化,省力化など,設計,施工の両面にわたって,量的にも質的にも大きな躍進を遂げてきた。しかし,一方において,これらの発展の蔭に,悲惨な労働災害により,多くの労働者の生命が失われたことを忘れるわけにはいかない。 とくに建設工事における労働災害は,他の産業部門に較べ,その発生頻度の高いこと,死亡災害が多いことなどもあって,その防止対策については,常々論議されているが,前に述べた工事の量的拡大,質的変換や建設業の有する本質的な諸問題ともからみ,その有効な対策は重要な課題として残されているのが現状である。
 本報告は,過去20年間にわたる建設工事における労働災害の発生の推移と動向について,統計資料に基づき概括し,その発生の態様について若干の分析と考察を行なったもので,建設工事関係者が,労働災害の推移と実情について認識を持ち,併せて今後の労働災害の防止をはかる上での資料として活用されることを目的としてまとめたものである。

移動式足場の移動中における安定性について

TN-75-5
森宜制,小川勝教,河尻義正
はじめに
  移動式足場は,タワー状に組立てられた枠組構造の最上層に作業床を,間柱の最下端に脚輪を備えた足場であり,通称ローリングタワーと呼ばれているものである。
 この足場は,枠組構造で出来ているために,作業に応じて足場の高さを容易に変えることができ,また人力によって容易に移動ができるために,建築工事における天井・壁などの室内の仕上作業・配線作業またはビルなどにおける補修工事用の足場として主に使用されている。
 移動式足場に関する労働災害について調べてみると,大半は足場の転倒事故によるものであるので,この足場に関しては,足場の転倒を防止することによって労働災害をかなり軽減することができると思われる。
 この転倒事故の内容は,過去の事故の例から,次のようなものである。
  1. 足場の移動中,足場の脚輪が物につまずくまたは窪みに落ち込むことによる。
  2. 足場上での梯子などの使用により,足場に多大な水平力を与えることによる。
  3. 足場の同一外側面を複数の作業者が,同時に昇降することによる。
 以上のような例は,いずれも足場の安定性に関する問題である。
 移動式足場の安定性については,
  1. 足場の移動中における場合.(上記1))
  2. 足場の静止中における場合(上記2),3))
の2通りの場合について検討する必要があり,足場の移動中における安定性が確保された上で,静止中における安定性が確保されるべきである。現実には,計算により容易にできる静止中の安定性の検討がなされているのみで,移動中における安定性についての検討はあまりなされてない。
 よって我々は,実大の移動式足場を用いて,移動による転倒実験を行ない,移動中における足場の安定性の検討を行なったので,その概要について述べる。

プロパン–空気系混合ガスの実験的最大セーフ・ギャップの温度依存性に関する研究

TN-75-6
鶴見平三郎
まえがき
 セーフ・ギャップの温度に対する依存性については,測定容器の内部にみたされたガスおよび蒸気の温度,測定容器を囲ぎょうするそれの温度すなわち雰囲気の温度,容琴自体の温度特にギャップ部分を構成するフランジの温度あるいは,内部のガスおよび蒸気の燃焼にともなう燃焼生成物の温度に影響される。
 K.H.Grobleben は,CH4 –空気系の混合ガスを用いて測定容器内で燃焼させた場合の燃焼生成物の温度およびエンタルピを測定しているが,必ずしも実験的最大セーフ・ギャップ(以下M.E.S.G.という。)は,燃焼生成物の温度またはエンタルピが最大値をしめす濃度においてあらわれていない。すなわち CH4 8.7 vol.%(以下%といい,特記のない場合においてはいずれも空気系の混合ガスをしめす。)においてあらわれており,この濃度は,燃焼生成物の温度またはエンタルピが最大値をしめす濃度よりも希薄な濃度である。
 測定容器内部のガスまたは蒸気そのものを予熱することによって着火し,温度の影響を実験または算定した研究者としては,H.Phillips および K.Nabert の両氏があげられるが,後者の研究は,均一に容器を加温しなければならないという実験技術上の制約から内容積 15 ㎖ の小型の測定容器を用いたものである。
 すなわち K.Nabert は,CH4, n-C6H14, C2H4 および H2 について 293 °Kより 535 °K までについて実測して,H2 以外については,セーフ・ギャップの温度による依存性がはば直線関係であることを見出している。ただし H2 については,ある程度のバラツキが報告されている。
 また同氏ほ,各実測温度における外部容器に対する点火確率を求めており,H2 および C2H4 について,直線関係で,点火確率を近似している。
 さきに掲げた S.M.R.E. の H.Phillips は,文献値を用いて CH4 のM.E.S,G.に対する温度の影響を推定し,300 °K から 500°K にわたり直線関係であると報告している。
 これまで述べて来た内容はセーフ・ギャップの温度に対する依存性に関して研究を行なっている英国および西独における研究の全体のすがたであるが,筆者が行なったこの研究においては,内容積 8,000 ㎖の標準容器を用いて研究を行なうこととし,これらの各国のデータと比較対照を行なうこととした。
 このことは,現実の化学工場の危険場所の様相にてらしても,極めて必要なことであり,また基礎工学的にみても有用である。
 対象とした燃料は,現下最も取扱われる頻度の多い C3H8 を取りあげることとし,プロパンのセーフ・ギャップの温度依存性については,いまだ各国のデータにみられないものである。

発火温度データ(第2集)

TN-75-7
柳生昭三
緒言
 発火温度は物質の発火危険性の程度を温度であらわす特性値で,火災および爆発の予防上重要な数値であるが,可燃性物質全般についてはデータがまだ不備であり,現状では適切な予測方法もないので,今後も実測に頼らざるをえないと考えられる。しかも,発火温度は測定法による影響が一般に大きいので,測定結果をあらわすのに,測定方法,発火のおこる最低温度,温度と発火おくれ時間の関係などを明示する必要があるが,このような記録例は比較的少ない。
 上記の現状から,著者は発火温度データの補充および整備の必要性を感じ,さらにはその推算法を探求するため,数年来基礎的物質についてその測定を行なってきた。そして,すでに測定物質の数は200を越え,その結果の検討により,物質の分子構造と発火温度の関係などがほぼ把握でき,さらに発火温度の予測もある程度できるようになった。これらの検討結果は別に報告するとして,まず発火温度の測定結果だけをまとめて報告することにし,さきの第1集につぐ第2集として,ここに100物質についての主要データを記載した。

トンネル建設工事における労働災害の分析(1) –山陽新幹線六甲トンネルについて–

TN-75-8
前郁夫,花安繁郎,鈴木芳美
まえがき
 我が国における新幹線,高速道路は,産業基盤整備計画,特に運輸部門での輸送,交通網の整備拡充計画に基づき,高速及び大量輸送の手段として,昭和30年代後半より建設が行なわれてきた。これらの鉄道,道路の建設過程で,路線の線形上の制約と,我が国特有の地形,用地取得,公害環境問題などの関係から,必然的にトンネル建設の需要,特に長大トンネルの需要が大きく増加してきた。
 長大トンネルの建設には,斜坑,立坑などの作業坑を中間に設ける分割施工が採用され,また高能率の掘削,運搬機械の投入による機械化施工が行なわれ,かなりの施工実績を上げてきたが,それらの積み重ねの中で,トンネル施工技術も大いに進歩を遂げ,工期の短縮,省力化,悪質地盤の克服等に成功し,その技術レベルは世界的にも高い評価を得ている。
 一方これらのトンネル建設工事に伴う労働災害は,施工技術の進歩により,かなり改善されつつあるが,他の土木構造物建設工事中の災害に比較すると,度数率,強度率ともに依然として高い値を示している。これらの背景,及び災害の発生状況に就いては既に技術資料に詳述した通りである。
 今回,トンネル施工中の労働災害の実態をより明確に把握するため,山陽新幹線六甲トンネルを対象として,休業8日以上の災害について調査,分析を行ったが,本報告は,それらの結果および考察をまとめたものである。

階段・通路の安全性に関する研究–階段歩行中での労働災害の調査について

TN-75-9
木下鈞一,永田久雄,小川勝教,河尻義正
調査の目的
 階段で滑ったり,つまづいたりして転倒し,足を捻挫するとか後頭部を打撲するという災害はいたるところで発生している。傷害に至らないまでも単に転倒したという経験はだれでも持っているに違いない。
 この災害を防止するためには転倒するに至る原因を明白にする必要があるが,我々がときどき経験するにもかかわらずその原因を的確につかむことができない場合が多い。しかしできるだけ多数の同様の災害事例を調査すれば災害原因の手がかりをつかむことができるのではないかと思われる。このため,労働災害の事例をもとにして階段の仕様,被災者の昇降状態をできるだけ詳しく調べ,また実際に行なわれている階段設計の現状を調査し,その結果より災害につながる要田を明らかにして,階段の設計において安全上考慮すべき資料を得ることを目的とした。

布板一側足場の安全性

TN-75-10
森宜制,小川勝教,河尻義正
まえがき
 従来,一側足場は木造住宅,低層建築(3階程度)用の足場として多く使用されているだけでなく,単管の本足場および枠組足場が設置できない狭隘な場所に設置する場合の足場として使用されている。しかし,これまでの一側足場は,構造的には一列建地で,それ自身では自立できないばかりでなく,建地に布材を取付けただけの作業床を備えてない足場で,「作業床を備えたものが足場である」という足場本来の定義から外れた存在であった。
 最近,作業床を備えてないという一側足場の難点を補うように考慮された布板を用いる一側足場が,木造の建築工事,または3階程度の建築工事に使用されて来ている。
 この足場は,足場の構造が従来の一側足場と異る(従来の一側足場は,足場の横面方向の座屈に対して大筋違いによって抵抗する構造であるが,布板一側足場は構面方向の座屈に対し,方杖によって抵抗する構造である)ために,その安全性を検討する必要がある。
 また,これまでの一側足場に比較して安心感があるとは言うものの,使用高さなどについて本足場(枠組足場,単管足場)と同じように扱ってよいかどうか疑問が多い。
 よって,この足場の構造的な安定性を検討すると共に,布板一側足場として具備すべき点等について調べたので,その概要を報告する。


刊行物・報告書等 研究成果一覧